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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)6469号 判決

原告

伊東満

原告

伊東妙子

右両名訴訟代理人弁護士

大深忠延

千田正彦

木村達也

三橋完太郎

平野鷹子

三木俊博

浅岡美恵

被告

株式会社ダイナース貿易

右代表者代表取締役

岩本康

被告

酒井慶太

被告

玉城義則

被告

長野宏二

被告

高原憲玉

右五名訴訟代理人弁護士

若月隆明

主文

一  被告株式会社ダイナース貿易、被告酒井慶太、被告玉城義則、被告高原憲玉は、原告らに対して、連帯して各一五万円を支払え。

二  原告らのその余の請求は棄却する。

三  訴訟費用は、原告らに生じた費用の各五分の三及び被告株式会社ダイナース貿易、被告酒井慶太、被告玉城義則、被告高原憲玉に生じた費用の各二分の一並びに被告長野宏二に生じた費用を原告らの負担とし、その余の費用を被告株式会社ダイナース貿易、被告酒井慶太、被告玉城義則、被告高原憲玉の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して、原告らに対し、六〇万円及びこれに対する昭和六〇年八月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告株式会社ダイナース貿易(以下「被告会社」という。)は、昭和五九年五月三一日大豆、砂糖等の農作物等の海外定期市場等における先物取引の受託等の業務を目的として設立された会社である。被告玉城義則(以下「被告玉城」という。)、被告酒井慶太(以下「被告酒井」という。)は、いずれも被告会社の勧誘員、被告長野宏二(以下「被告長野」という。)は、被告会社の副長、被告高原憲玉(以下「被告高原」という。)は、被告会社大阪支店の支店長代理である。原告伊東満(以下「原告満」という。)は、被告会社大阪支店で、SP五〇〇株価指数先物取引(以下「本件取引」という。)の顧客とされたものであり、原告伊東妙子(以下「原告妙子」という。)は、原告満の妻である。

2  不法行為

(一) 事案の経過

(1) 原告満は、外国航路乗船員であるが、昭和六〇年四月九日下船し、同年六月一二日乗船するまで休暇中であつた。

(2) 原告満は、同年六月六日(木曜日)、被告酒井から電話で本件取引の勧誘を受けたが、経理は妻が握っている、取引に関心もないし余裕もない等を理由にこれを断わった。

(3) 原告満は、同月七日(金曜日)、被告酒井の訪問を受けた。同被告は、同日の午前一一時ころから午後六時過ぎころまで七時間余の長時間にわたって滞在した。当初、原告満は、いくら説明を受けてもよく取引の仕組みを理解できない等を理由に取引には応じられない旨応対していた。しかし、被告酒井は、これに納得しないで、本件取引の有利さ等を何度も説いて原告満に対し取引を迫るので、原告満は、同日午後五時前後ころ、催眠術にかかったような状態で、被告酒井の差出す売買注文申込書等に署名捺印した。その注文の内容は、SP五〇〇株価指数一ユニット(九月限月)、指値一九四・八ポイント以下買というものである。原告満は、右署名捺印の後である同日午後五時三〇分ころ、勤務先の常石海運から来る同月一二日から乗船するようにとの職務命令を受けた。原告満は、被告酒井に対し、その旨を話し、やはり取引はできないと言ったが、被告酒井は、被告高原に頼めば取引ができると言って、その申出を一蹴した。

(4) 右取引にともなって原告満が被告会社に差入れる委託保証金としては、株券でもよいとの被告酒井の言葉により、原告満は、和光証券池田支店へ保護預りとしていたテルモの株券(一〇〇〇株)を当てることとして、同支店に問合わせたところ、株券が本店から送付されるのは乗船後の同月一三日であるということがわかり、冷静に考えると、被告酒井から勧誘を受けた取引及びその勧誘方法に疑念が生じ、原告妙子と相談のうえ、被告会社に本件取引の解約を申出ることとした。

(5) 原告満、原告妙子は、同日七時五分ころ、被告会社の大阪支店に解約の電話を入れたところ、被告高原が応接し、「一方的に解約できると思っているのか、警察でもどこでも一緒に行こう。」等と威迫した。

(6) 原告満は、同月八日(土曜日)午前九時ころ、被告会社大阪支店へ、再度解約確認の電話を入れたが、被告高原等担当者が不在であったために、女性事務員に解約する旨伝えた。さらに、原告満、原告妙子は、同日、宝塚市の市民相談室に相談したうえその教示を受け、同日付で被告会社に対し、「昭和六〇年六月七日貴社のセールスマン酒井氏にS&P―五〇〇の取引を勧誘されましたが、理解不明であり、将来この売買注文する意思も、代金を入れる意思もないので通告いたします。」との内容証明郵便を送付した。

(7) 原告満は、同月一〇日(月曜日)被告会社大阪支店に電話し、被告高原に対し、解約の内容証明郵便を送付したことを伝え、前記注文の委託を解約する旨述べたところ、同被告は、「一方的にキャンセルができるわけはないだろう、損金はどうするのか、内容証明を指導した法律家にも責任を取ってもらう。」等といってこれに応じず、原告満が右電話を切るとすぐに原告方に電話を掛けてきて、執ように同様のことを繰返すので、原告らは、その苦痛に耐え得ず、受話器を外すほかなく、原告らの電話の使用が不能となった。

(8) 同日午前一〇時一〇分、被告酒井は自動車で原告方に来て、インターホーンを鳴らし続けた。原告両名は、恐怖のためにこれに応接しないでいたところ、被告酒井は、昼食時を除いてずっと見張りを続け、その間何回となくインターホーンを鳴らし、ようやく、同日午後三時ころ引き揚げた。さらに被告長野は、同日午後四時ころ、原告宅に電話を掛け、原告妙子に対し、「奥さんおられたのですか。」等と言い、原告満の所在を尋ね、原告妙子が原告満は乗船準備のため忙しく在宅していないと説明したにもかかわらず、同電話の約一〇分後、原告方にやって来て、原告妙子が、玄関内から原告満は留守であると言うのにもかまわず何回もインターホーンを押し続けた。また、同時刻ころ、被告高原も電話をかけてきたが、同じことの繰返しであったので、原告らは、前日同様、受話器を外さざるを得ず、一方、外では被告長野が張っていたので、外出もできなかった。被告長野は、同日午後九時ころ引揚げた。

(9) 原告両名は、ほぼ一日家を見張られ、恐怖の余り、今後の身の処し方を相談するために、同月一一日(火曜日)午後七時半ころ、宝塚警察署に赴き、同日午前一一時半ころ帰宅した。原告らは、同署において、身体、財産に危害が及んだらすぐ一一〇番するように指示を受けた。その後、原告らが帰宅したところ、隣近所の住人から、原告らが不在中、被告らの内のいずれかが門を開けて屋敷内に立入り、家屋の回りを徘徊していたことを聞いた。同日午後二時四〇分ころには、被告玉城が来て、原告らに面接を求めてきたので、原告妙子は恐怖のため、これに応じない旨言うと、同被告は、隣近所に聞こえよがしに、約四〇分間にわたって、「逃げているんですか。自分の会社は伊東さんに騙されて大損害を被った。弁護士を連れてくるから一緒に話してください。いくら争ってもあんたの方は負けますよ。会社は告訴します。」等と大声を張上げた。原告らは、同被告らが引揚げた後、法的手続きを取るために即日原告代理人に相談し、事件を委任した。

(二) 違法行為

(1) 取引実施自体の違法性

① 現在、業者が、一般大衆に対して、国際商品取引として勧誘受託している業務は、社会的にその方法が確立しているものではなく、むしろ詐欺的商法の道具に用いられているものである。

政府は、「国内の一般大衆を海外商品取引所に勧誘するのは、単に『国際化』の美名に酔っているに過ぎず、経済的にまったく意味のない活動と考えている。」という認識に立ち、「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」(いわゆる海外先物取引規制法)を立法化し、昭和五八年一月一五日、香港市場を政令指定市場として規制に乗出したが、業者は、この規制を回避するために、ロンドン、米国市場(ニューヨーク、シカゴ)に切替え、基本的には、国内私設市場、香港市場等での「先物取引」の手口と同様の手口で一般大衆に対しこれを勧誘し、相場での損、あるいは営業の行詰まり等と見せかけて詐欺的商法を展開してきたものである。

被告会社の設立は、昭和五九年五月三一日であり、後続会社といえるが、被告らは、悪名高いファースト貿易等からの転身組であって、この間の事情を百も承知しているものである。

② 本件外国商品取引受託業務について

被告会社は、原告満から売買取引委託契約書(以下「本件契約書」という。)を徴している。ところで、業者が作成し顧客に対し画一した約定書を用いる場合、これが有効か否かについては、約款の法的拘束力の問題として議論され、約款が適正であり、合理的なものでなければならないことは勿論のことである。また本件は、海外先物取引の受託業務にかかるものであるが、国内公認市場は、商品取引所の開設、さらに商品取引員の認可も含め、厳正な法規制と主務官庁間の監督下におかれており、商品取引法(以下「商取法」という。)九六条は、「商品取引員は、商品市場における売買取引の受託については、取引所の定める受託契約準則によらなければならない。」と定められている。海外商品先物取引は、右の国内公認市場より一層制度的に理解し難く、さらに時差があるうえに為替相場の変動という複雑困難な要因があり、その危険性が極めて高く、一般大衆が海外商品先物市場に参加する社会的経済的意義はまったくなく、制度的にも確立していない。被告会社から原告に対し交付された売買取引委託契約書なるものは、業者以外の者にとって、これをよく理解することのできない代物である。たとえば、委託者は、契約書の条項を承諾して外国商品取引所における上場商品の売買取引を行うことを被告会社に委託するとの体裁になっているが、その一条をみると受託者である被告会社は、「委託者の注文に基づく商品の売買を、その外国商品取引所に所属する会員業者を通じて行うものとし、売買取引はその外国商品取引所の定める定款、諸規則、約款及びその商品取引慣習、慣例に従って行うことを委託者は承諾する。」とある。外国商品取引所といっても米国だけで一一市場あり、上場商品はおびただしい数にのぼっている。本件の場合、シカゴマーカンタイル取引所(CME)のSP五〇〇株価指数であるが、その取引の仕組みにつき本邦において精通している者がどの程度いるかは極めて疑問である。一般大衆にとり、米国の各取引所の定める定款、諸規則、約款等を理解し得ないのは当然であり、本件契約書は、このことのみをもってしても法的拘束力を持たないものである。

(2) 勧誘・受託過程の違法性

本件においては、

① 各種名簿に基づく電話による無差別勧誘を行なったこと、

② 原告宅に赴き、約七時間にわたる執ような勧誘を行ったこと、

③ 海外先物取引システム及びその危険性が、具体的に告知されず、むしろ、その危険性はない旨の虚偽の事実を述べていること、

④ 原告満は、契約書等に署名、捺印後、勤務先から乗船命令の電話を受けたのを機に、被告酒井に取引を撤回する旨の意思を明らかにしたにもかかわらず、法が禁じている一任売買をとりつけていること(商取法九四条三号、海外商品市場における先物取引の受託に関する法律一〇条三号、四号)

⑤ 被告らは、引続き、原告らから電話及び郵便で解約の申出を受けたのに、これに応じず、再三再四、電話による方法や、原告宅への来訪によって、原告満への面会を強要し、応じないとみると、インターホーンを鳴らし続け、わけもなく屋敷内に入って家の回りを徘徊し、あげくは、長時間にわたって原告宅の近所に聞こえよがしに前記のとおり悪口雑言を浴びせるなど、原告らを侮辱して社会的信用を傷つけ、加えて、近隣の平穏を脅かしたこと

など極めて悪質で違法性が強い。

(三) 損害

(1) 慰謝料

原告満は、外国航路乗組員であり、下船後、乗船間際の昭和六〇年六月六日、電話による勧誘を受けてから、同月七日原告宅において長時間で執ような勧誘を、また原告らは、解約申出をした後、被告らから徹底した嫌がらせ、脅迫等を受けて、外国航路乗船員としての休暇中の貴重な家庭生活の平穏を乱されたばかりか、近隣にまで不穏な影響を与え、社会的信用を害された。また、原告らは、その間、原告満の乗船を目前にして準備中に、被告らの度重なる執ような前記違法行為に対応せざるをえず、宝塚市市民相談室、宝塚警察署等に相談のうえ、弁護士に事件を委任するに至るなど、その精神的苦痛は筆舌に尽くしがたいものがあり、あえてこれを金銭に見積るとすれば、原告両名各二五万円が相当である。

(2) 弁護士費用 一〇万円

以上合計六〇万円

(四) よって、原告らは、被告らに対し、不法行為に基づき、六〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年八月二三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)(1)の事実は認める。

(二)  同2(一)(2)の事実のうち、原告満が、昭和六〇年六月六日、被告酒井から電話で本件取引の勧誘を受けたことは認めるが、その余は否認する。

(三)  同2(一)(3)の事実のうち、原告満が、同月七日、被告酒井の訪問を受けたこと、原告満が、SP五〇〇株価指数一ユニット(九月限月)、指値一九四・八ポイント以下買という内容の売買注文申込書等に署名捺印したことは認め、その余は否認する。

(四)  同2(一)(4)、(5)の事実は否認する。

(五)  同2(一)(6)の事実は知らない。

(六)  同2(一)(7)、(8)の事実は否認する。

(七)  同2(一)(9)の事実のうち、昭和六〇年六月一一日被告玉城が原告満に面接を求めたことは認めるが、その余の事実は、不知ないし否認する。

(八)  同2(二)、(三)は、争う。

三  被告の主張

1  事案の経過

(一) 昭和六〇年六月六日

被告酒井は、原告宅に電話して、これに出た原告満に対し、本件取引について話を聞いてほしい旨申し入れたところ、翌七日の午前中に在宅しているので話を聞いてもよいとの返事を得た。

(二) 同月七日

被告酒井は、取引の話を聞いてもよいとの原告満の意向にしたがって、同日午前一一時ころ、原告宅を訪問し、原告満に取引の説明をしたところ、同日午後三時四〇分ころ、原告満から売買契約委託契約書に署名捺印を得たうえ、SP五〇〇株価指数について、九月限月物一ユニットを一九四・八ポイント以下の指値で買付注文の委託を受けた。

ところで、右一ユニットの買付注文に対しては、委託保証金一〇〇万円が必要であったが、原告満は、当初保証金の代用として原告満所有のテルモの株式一〇〇〇株を納入することとし、右株式の株券を、証券会社から送付される同月一三日に被告会社に引渡すこととした。しかし、被告酒井が、原告満から取引の注文を受け、代用の保証金として株券を差入れを受けるとの話が決まった直後、原告満の勤務先から、同月一二日に乗船するようにとの電話連絡があり、証券会社から原告満に株券が送付されるのは、原告満が乗船後のことになることがわかったので、原告満と被告酒井は、話合った結果、右取引に関する保証金は現金で同月一〇日に納入することとし、その日の午前中に被告酒井がこれを受取りに原告宅を訪問することとなった。

なお、被告酒井は、同月七日午後五時ころ原告宅を辞去したが、原告満が契約書に署名捺印し取引注文した同日午後三時四〇分ころ以降は、主に保証金の納入方法と取引に関する一般的な話に終始した。

ところで、被告酒井が被告会社に帰社した後、原告満から被告会社に、「以前、妻が国内の先物取引で失敗していることから、本件取引について心配しているが、どうしたらよいか。」との電話があり、これに応対した被告高原は、「九月までの相場をみて利益の乗ったところで処分すればよいのであるから心配しなくてもよいのではないか。」と答えると、原告満は、「そうですか。」と言って電話を切った。その際、原告らから、契約解約の話は一切なく、被告高原は、原告ら主張のような発言をしたことはない。

(三) 同月一〇日

被告玉城及び被告酒井は、同月七日の原告満との約束にしたがって、同月一〇日午前一〇時ころ、保証金一〇〇万円を受領するため、原告宅を訪問したが、不在であった。そのため、右被告両名は、他をまわった後、昼過ぎころ、再度原告宅を訪問し、被告玉城において、インターホーンで来意を告げ原告満に面会を求めたところ、これに出た原告妙子から、原告満は不在であるとのみ告げられたため、後刻訪問することとして、その場を辞去した。

同日午後四時ころ、被告玉城及び被告酒井は、原告宅を訪問し、インターホーンを押したが、まつたく応答がなかったので、やむなくそのまま帰社した。

一方、原告妙子は、被告会社に電話をかけ、「キャンセル料を支払うことにより、原告満の取引を解約できないか。」と申入れてきた。これに応対した、被告高原は、「原告満の取引注文は、六月七日の午後五時に市場に通し、取引は成立しているので解約はできない。取引をやめるならば、売却処分して決済をしてほしい。」旨答えると、原告妙子は、最後に、「キャンセルの内容証明郵便を出した。」と言って、一方的に電話を切ってしまった。そのため、被告高原は、事情を聞くために、折返し原告宅に電話をしたところ、受話器は取っているがなんら応答がなく、原告妙子とは話ができないままに終り、その後である同日午後四時過ぎころ、原告満発信の「将来、売買注文する意思も代金を入れる意思もない。」と記載された通知と称する内容証明郵便が到達した。

(四) 同月一一日

被告会社は、同月一〇日、原告満から一方的な解約通知を受けたが、原告満の注文した取引はすでに市場で成立しているため、そのまま放置することができず、被告玉城は、原告満とその後の処置について話合うため、同月一一日午前一〇時ころと、昼ころに、原告宅を訪れたが、原告らは、いずれも不在であり、午後四時ころ、再度原告宅を訪れ、インターホーンに出た原告妙子と応対した。その際、被告玉城は、原告妙子に対し、「内容証明郵便を受取ったが、すでに、ご主人が注文した取引は市場で成立し、建玉があるのでそのまま放っておくことができない。ご主人の意思を確認のうえ、今後の処理について話をしたい。」旨を申し入れたのに対し、原告妙子は、「主人はいない。話合いの必要があるならば、消費者センターの人なり、弁護士を立てて話合います。」と言うのみで、それ以上の話はまったくできず、その間の所要時間は、五分程度であった。なお、被告らが原告宅の門を開けて屋敷内に立入り、その回りを徘徊したということや、被告玉城において、原告主張のような発言をしたことはない。

ところで、被告会社と原告満の取引契約によると、被告会社が委託を受けた取引のための委託保証金の納入を指定期日までに受けられない場合には、被告会社において、委託を受けた取引を任意売却してその差損益金を清算できる旨の約定がある。被告会社は、原告満から指定された同月一〇日に委託保証金の納入を受けられず、かつ、原告満から同保証金及び取引継続の意思がない旨の通知を受け、さらには、話合いすらできない状況であったため、やむをえず、同月一一日午後五時をもって、原告満の同月七日付の一九四・八ポイントで成立していた買取引を売却処分して、右取引を仕切るに至った。右売却時の仕切りポイントは、一九三・六五であったために、原告満の取引については、二六万三七五〇円の損金が発生した。

(五) 同月一二日

被告会社としては、原告満との間で、右の損金の処理をする必要があるため、被告長野は、同月一二日午後一時ころ及び午後二時ころ、右の話合いをすべく原告宅を訪問したが、いずれも、原告らは不在であった。その後、被告長野は、同日午後四時ころ、原告宅を訪れ、インターホーンで、「話をさせてください。」と申し入れたところ、これに出た原告妙子から、「関係ない。」と言われ、まったく取りつく島もなかった。そこで、被告長野は、やむをえず、原告宅を離れ、原告妙子に対し、電話で、「とにかく話をさせてほしい。」旨原告妙子に申入れをしたところ、原告妙子からは、「関係ない。」の一点張りで、電話を切られてしまい、それ以上は無理と判断し、帰社した。

その後、被告会社としては、以上の経過からして、原告満との話合いは不可能と判断し、原告満の取引の損金は被告会社が負担することとして、以後、原告らとはなんら接触はなかった。

2  以上が、被告会社の社員である各被告らが原告らに対してした言動であるが、被告酒井の行為が、社会的に許容される範囲を甚だしく逸脱した執ような勧誘とはいえず、また、被告高原、被告玉城及び被告長野の行為も決して原告らに対する嫌がらせや脅迫等の性格、内容をもつものではなく、原告らの取引に対する一方的な姿勢、態度に対する社会的に許容される範囲内の当然の行為であって、なんら責められるべきものではない。そして、本件取引に関して非を問題とするならば、むしろ、契約締結のうえ、取引委託をしたにもかかわらず、一方的に、すべての破棄を通告し、なんら関係ないとして、被告会社からの話合いにも応じようとしない原告らの姿勢・態度にあった。したがって、原告らの主張は、失当である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の事実及び請求原因2の事実中、原告満が、外国航路乗船員であり、昭和六〇年四月九日下船した後、同年六月一二日乗船するまで休暇中であったこと、原告満が、同月六日被告酒井から電話で本件取引の勧誘を受けたこと、同月七日被告酒井の訪問を受け、SP五〇〇株価指数一ユニット(九月限月)、指値一九四・八ポイント以下買という内容の売買注文申込書等に署名捺印したこと、被告玉城が、同月一一日原告満に面接を求めたことは、当事者間に争いがない。

二事案の経過

右争いのない事実及び〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告満は、外国航路乗船員であつて、航海に出ないで本邦に滞在するのは年間約二か月間しかなく、また、これまでに商品等の先物取引の経験を持たず、株式等証券の取引を約一ないし二年に一回したことがあるだけである。

2  原告満は、昭和六〇年四月九日に下船してから乗船予定の同年六月一二日まで休暇を取って、兵庫県宝塚市中山荘園三−一二の自宅(以下「原告宅」という。)に滞在していたが、同月六日、被告酒井から、電話で、本件取引の勧誘を受け、その取引の内容は理解できなかったが、被告酒井が説明のために原告宅を訪問することに了解を与えた。

なお、被告会社は、その当時、約三〇種の名簿を有していたが、被告酒井は、その中の船員関係の名簿から原告満の氏名と電話番号を知って、同原告に電話するに至ったものである。

3  被告酒井は、同月七日午前一〇時過ぎころ、原告宅を訪れ、原告に対し、本件取引につき、ごく簡単な説明をしたうえで、同取引を勧誘した。原告満は、当初、取引の内容をよく理解できない、航海で本邦を離れていることが多い、家計の実権は妻がもっており、自分が自由にできる金銭はないなどと言って、これを断わっていたが、被告酒井から、アメリカで行われているが近く日本でも取引が大きくなる、これで儲けた人がいる、今がチャンスである、今しておけば間違いない、現金がなくても保有している株式で取引をできるなどと、雑談も交えて、長時間にわたって説得を受けるうち、右の勧誘に応じてもよいという気持ちになり、被告酒井の勧めるまま、売買取引委託契約書、リスク告示書各一通、売買注文申込書二通(銘柄・SP五〇〇、売買区分・買、限月・九月、数量・一ユニット、価格指定・指値一九四・八以下、との記載のあるものと、銘柄、数量、価格指定・各空白、売買区分・売、限月・九月、との記載のあるもの)に、署名捺印し、さらに、委託保証金として、原告満が所有し証券会社に預託している株式(テルモ一〇〇〇株)を被告会社に預託することとして、その旨及び被告会社が右株式を金融機関等の担保に供することに同意する旨の同意書に署名捺印した。その際、被告酒井は、原告満に対し、右各書面についての説明をほとんど行わなかった。その後、原告満は、勤務先の常石海運から同月一二日から乗船するよう指示する電話連絡を受けたことで、一旦は思い直して、被告酒井に、その旨を話して、やはり取引はできない旨述べたが、被告酒井は、原告満が航海中は、被告会社大阪支店の支店長代理である被告高原に任せれば取引ができると述べて、原告満を説伏せて、原告満が留守中の間被告高原に売買を一任する旨の依頼書を書かせた。被告酒井は、原告満から受託した注文を原告宅から電話で被告会社の被告高原に連絡して、所定の方法(後記認定)で取引所に右注文を入れた。被告酒井は、同日午後六時ころまで原告宅に滞在した後、帰社した。(被告高原本人尋問の結果中、一旦は委託保証金として株券を預託することとなったが、その後、原告満に乗船命令が出たために、乗船までに株券の引渡しを受けることができないことが明らかになったので、この合意を変更して、委託保証金として現金一〇〇万円を当てることとし、同月一〇日にその支払を受けるとの合意ができた旨の部分は、原告満及び原告妙子各本人尋問の結果、並びに、原告満が本件取引に応じたのは、委託保証金として、同原告が所有する株式を当てることによって、とりあえずは現金を支払わなくても取引を始めることができるとの説得があったことが一因となっていたこと及び株式を委託保証金に当てることや被告高原への売買の一任の依頼について、もしくはその他の合意については書面を交わしているのに、現金を委託保証金に当てる旨の合意につき書面を交わしたとの証拠はないことに照らして、措信できない。)

4  原告妙子は、被告酒井が原告宅を去る直前に勤務先から帰宅したが、被告酒井が去った後に、原告満から、被告酒井の勧めるままに契約書等に調印したことを聞き、その契約書をみたところ、その契約書にある取引が危険性の高そうな取引であることが窺知れ、原告妙子が、以前、商品の先物取引で損害を被った経験があって先物取引には嫌悪感をもっていたこともあり、原告満に契約を解約するよう求めるとともに、同日午後七時ころ、被告会社に電話を掛けて、これに出た被告高原に対して、解約したい旨述べたが、同被告から一方的な解約はできないと右申出を拒絶された(被告高原本人尋問の結果中これに反する部分は、次に認定する経過に照らし措信できない。)。そこで、原告満は、翌同月八日午前、再度解約の意思を伝えるために被告会社に電話をしたが、同日は土曜日で被告酒井や被告高原等担当者が不在であったため、電話に出た被告会社の女性事務員に右意思を伝え、これを担当者に伝えるよう言付けた。そして、原告満は、同日、宝塚市の市民相談室に赴いて、被告酒井の勧誘とその後の被告高原とのやりとりの経過を説明して、同所の相談員から、被告会社への対応について教示を受け、とりあえず、被告会社に対し、「被告会社のセールスマンの被告酒井からSP五〇〇の取引の勧誘を受けたが、理解不明なので、将来売買注文する意思も代金を入れる意思もないことを通告する」旨の内容証明郵便を差出し、同郵便は、同月一〇日に被告会社大阪支店に配達された。

5  原告満は、同月一〇日月曜日午前、被告会社に電話を掛け、これに出た被告高原に対して、解約してほしい、法律家の相談を受けて前記内容証明郵便を差出した旨を述べると、被告高原は、一方的には解約できない、損金をどうするのか、相談した法律家に損金を払ってもらうなどと応答し、またその調子は威嚇的なものであったので、電話を切った。その直後、一、二度被告高原から、電話があったが、原告らは、これには応答せず、その後は被告会社から頻繁に電話がかかってきて威嚇的な言葉を受けることを恐れて、受話器を外した(被告高原本人尋問の結果中、これに反する部分は、前記の経過並びに原告満及び原告妙子各本人尋問の結果に照らし措信できない)。

6  被告酒井は、原告満が本件取引を解約したいとの意向を示していることを知って、原告満の翻意を求めるべく面談するために、同日午前九時過ぎころ、自動車で原告宅に赴き、インターホーンを鳴らしたが、原告らは市民相談室の教示に従って、これに応答しなかった。被告酒井は、原告宅の前の空地に自動車を止めて、その後合流した被告玉城とともに、原告満との面談を求めて原告宅のインターホーンを鳴らしていた。原告妙子は、同日午後、右インターホーンに出て、原告満は乗船前の準備で不在である旨伝え、そのころ掛ってきた電話にも同様に返答し、その後は応答の煩わしさを避けるために受話器を外した。被告酒井及び被告玉城は、その後も面談を求めて原告宅のインターホーンを鳴らし、原告宅前の前記空地に駐車した自動車内で、原告宅の様子を窺っていたが、同日午後九時ころ同所から退去した。(被告高原及び被告玉城各本人尋問の結果中、被告酒井、被告玉城は、同日、原告が解約の意向をもっていたとは知らずに委託保証金の集金に原告宅に赴いたとの部分は、前記3、4の経過及びそこで述べたことに照らして、また、被告玉城本人尋問の結果中、被告酒井及び被告玉城は、同日午後四時ころ原告宅前から去って帰社したとの部分は、証人衣川美砂の証言に照らして、いずれも措信しがたい。)その間、原告らは、外出することもできずに、原告宅内に籠らざるをえなかった。(原告満及び原告妙子各本人尋問の結果中、同日被告長野も原告宅に来て被告酒井と行動をともにし、原告宅に電話を掛けたり、インターホーンを鳴らすなどした旨の部分は、被告高原、被告玉城及び被告長野の各本人尋問の結果に照らしてにわかに措信することはできない。)

7  原告らは、同月一一日午前七時ころ、宝塚警察署に赴いて、事情を説明して、援助を求めたり、対応の教示を受けるなどして、同日午前一一時過ぎころ帰宅した。その間、被告会社の従業員のいずれかが、原告宅の門から原告宅の敷地内に入り、原告宅内を覗いた。原告らは、警察署から帰ってから、隣家の住人より、その旨を聞かされた。

被告玉城は、同日午前一〇時ころ及び午後二時三〇分ころ、原告宅を訪れたが、午後二時三〇分ころに訪れた際には、原告宅のインターホーンを何回も鳴らしたうえで、原告の門の扉を開けて、原告の玄関の戸のところまで至り、その戸を叩きながら、近隣に聞こえる大きな声で、原告を呼び、内容証明郵便は効果がない、被告会社は大損害を被った、などと約三〇分もの間右と同様な声で叫び続けていた。

8  被告会社は、同月一二日、原告満に対し、原告が注文した建玉を仕切り、その結果二六万三七五〇円の損金が出た旨の記載のある委託売付・買付報告書及び計算書等を送付し、これらは、同日、原告が出航のために自宅を出た後に原告宅に配達された。

三〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

SP五〇〇株価指数先物取引は、いわゆる金融先物取引の一種であり、米国スタンダード・アンド・プアー社が選定した米国の五〇〇銘柄の株価を指数化し、これを先物取引の対象としたものであり、一九八二年四月シカゴマーカンタイル取引所で上場され、米国における株価指数先物取引としてはもつとも大きなシェアーをもっている。株価指数の先物取引は、株式の価格変動リスクのうち個別銘柄の先物取引によっては軽減できない市場全体の変動リスクを軽減(ヘッジ)するため有用な手段であるといわれているが、この取引が対象とするのは株価指数という抽象的な存在でありその実体はなく、すべて差金決済によつて取引を清算する。その相場は、米国の株式市況、ひいては米国さらには世界の経済、政治の動向によって変動する。本邦では、株式の先物取引としては、先頃、大阪証券取引所に上場された通称「株先五〇」しかなく、これも株価指数の取引ではなく、代表的な株式銘柄五〇種を対象とした先物であり、取引の最終日までに反対売買がない場合には現物の受渡しがなされという仕組のものであって、本格的な株価指数先物の上場はいまだ検討段階にあるにすぎない(この事実は当裁判所に顕著である。)のであって、本邦において株価指数先物取引は一般的な知識となっているとは到底いえない。ところで、被告会社は、シカゴマーカンタイル取引所の取引員の資格を有する米国ブルデンシャル・ベーチェ社と商品先物取引の受託契約を締結しているロイヤルリサーチ株式会社と海外商品取引受託契約を締結しており、一般の顧客から受けたSP五〇〇株価指数先物取引の注文を、ロイヤルリサーチ社を通じてブルデンシャル・ベーチェ社に出し、これをブルデンシャル・ベーチェ社が取引所に通して取引を成立させる。SP五〇〇株価指数先物取引の最小単位(一ユニット)は株価指数×五〇〇ドルであり、被告会社は、顧客である取引の委託者から委託基本保証金として一ユニット当たり一〇〇万円の預託を受け、一ユニット当たりの売買(往復)手数料として、一二万円を徴収することとなっているほか、相場の変動によって損計算となり、その額が一定の基準を上回った時及び相場に激しい変動が生じるかそのおそれがある場合で商品取引所が保証金の増額を求めた場合には、さらに追加ないし臨時の保証金の預託を受けることとなっている。被告会社は、その保有する多種の名簿に基づいて電話を掛けて取引を勧誘し、取引に関心を示した者を訪問するなどして顧客を募っていた。

四以上の認定事実を前提にして被告らの不法行為責任について検討する。

本件取引は、米国の商品取引所の株価指数という抽象的な存在を対象とした先物取引であり、本邦ではその知識は一般的にはなっていないこと、取引の最小の単位の金額は大きいこと(ちなみに、原告満が注文し成立したとされた取引である一ユニット、一九四・八ポイントは、仮に一ドル一五〇円の為替レートとすると一四六一万円にもなる)、その相場は、政治、経済等複雑な要因で変動する米国の株式市況にともなって変動すること、その変動によっては追加ないし臨時の保証金も預託しなければならなくなること、加えて時差や為替相場の変動があること等に鑑みると本件取引は極めて危険性の高い取引であるということができ、本来このような取引に投機家として参加する者は、自らの責任で相場の価格変動の危険を負担することに耐えうる資力と相場変動要因の的確な分析力を備える者でなければならないと考えられる。したがって、この取引の受託業者及びその勧誘員としては、顧客に対して、この取引の仕組み及びその危険性を十分説明しなければならず、また利益を生ずることが確実であると誤解させるような断定的判断を提供してはならない義務を負う(商取法九四条一号、海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律一〇条一号参照)ことはもちろんのことではあるが、資力や相場に対する知識がなく、複雑困難かつ危険性の大きい前記取引に参加する適格性に欠けている者か否かを判断して、適格性に欠ける者にはこの取引に参加させないように配慮する義務があるというべきである。これを本件についてみると被告会社の勧誘員である被告酒井は、面識のない原告満に対して電話で勧誘を行い、これに興味を示した原告宅を訪れ、長時間にわたって勧誘したものであるが、その間、本件取引の仕組みを十分説明しないばかりか、本件取引の有利な面のみを強調してその危険性を十分には説明せず、そのうえ取引を逡巡する原告満の不安を解消するためにさまざまな言辞を弄して原告満の的確な判断を妨げて、取引の注文を受け、しかも、委託保証金を受領も了しないうちに取引所に注文を通してしまうなど、被告酒井の右勧誘行為は、前記の説明義務及び断定的判断の提供の禁止に反する違法な行為というべきであり、さらに、原告満はこれまで、先物取引の経験はなく株式等の証券取引の経験もそう多くはないこと、勧誘中も本件取引の仕組みが理解できないあるいは自分で自由にできる金銭はないなどと述べていたこと、原告満は外国航路乗船員で航海に出ていることが多く、相場の動向やその変動要因の情報を収拾することには職業上著しい困難が有ることなどからすると、被告酒井は、原告満について本件取引に参加する適格性に問題があることは容易に判断できたはずであり、それにもかかわらず、原告満への勧誘を止めず、商取引法で禁止されている一任売買(同法九四条三号)の同意をも取付けているのであって、この点は前記の不適格者を取引に引込んではならない義務に反して違法であるといわなければならない(被告酒井が船員関係の名簿から原告満を勧誘するに至った経過からすると、被告酒井は取引の一任を取付けやすいことに注目して、ことさらに船員である原告満を勧誘したことが窺える)。また、原告らがこの違法な勧誘行為によって締結した契約の解約を求めると、これを翻意させるべく、被告酒井及び被告玉城は、原告宅を訪れて執ように面談を求め、原告宅の前で長時間張込みを行うなどし、さらに近隣に聞こえるような大声で原告らを恥しめるような言動を取ったのであるが、右契約が違法な勧誘行為に基づいて締結されたこと(契約の有効性自体も疑問がある。)に鑑みると、右各被告の行為は、契約の履行を求めたり、解約の意思を改めさせるための行為としては、社会的に許容される限度を逸脱しており、違法であるといわなければならない。

ところで、前記二の認定事実によれば、被告酒井及び被告玉城の右行為は、被告会社の業務の一環としてなされ、その指揮命令系統にしたがって、右各被告の上司である被告高原の指示で行われたことが推認されるから、被告高原、被告酒井、被告玉城には共同不法行為が成立し、被告会社は、民法七一五条の不法行為責任を負担するというべきである。なお、被告長野の違法行為への関与も疑われないではないが、前記のとおり原告の主張する不法行為の時期である昭和六〇年六月六日ないし同月一一日の間にはその関与を認めるに足りる証拠はない。

五損害

1 前記二で認定した経過及び原告満及び原告妙子各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、原告らは、下船中の限られた貴重な休暇を夫婦ともども楽しんでいた折りに、被告ら(被告長野を除く。)の違法行為によって、その平穏を破られ、困惑、不安を抱かされ、恥辱を受ける等多大な精神的苦痛を被ったことが認められ、その他諸般の事情も考慮すると、右精神的苦痛を慰謝する金額としては、原告らにつき、各一〇万円が相当である。

2  弁護士費用については、本件事案の内容、本件訴訟の経過その他諸般の事情を考慮して、原告らにつき各五万円が相当である。

六よって、原告らの請求は、被告長野を除く被告らに対して、連帯して、各一五万円の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については、民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を仮執行の宣言については、主文第四項の限度で相当と認め、同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官佐々木洋一)

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